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2006年5月14日 (日)

シガーとパフ

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 パウダーコンパクトケースの歴史は、そのまま中流階級以上の女性の、社会進出の歴史です。良家の子女が家の中でつつましく暮らしていた時代には、「携帯用」のお化粧道具は必要ありませんでした。
 ビクトリア女王がイギリスを統治していた時代、進歩的な上流階級の女性が社会奉仕に精を出し、また看護婦や教師といった、教養ある女性の就労も認められるようになりました。そして20世紀初頭、オートモビル(自動車)の普及などにより、「外」に出る活動的な女性は社会的にも容認されはじめ、同時に女性が携帯する化粧道具にも工夫が見られるようになって来ました。

 トップの写真は、1911年の消印のある絵葉書です。3人の淑女がクリスマスの買い物を楽しんでいる図柄です。このような女性たちが持っていた初期のコンパクトケースは、直径2インチ(約5cm)ほどの、小ぶりのものでした。初期のコンパクトがなぜ小さかったのか、というと、どうやら「バッグが小さかったから」という、単純な理由らしいのが、面白いところ。

 とはいえ、20~30年代までのコンパクトは、まだまだ裕福な上流階級の一部の女性たちのものでしかありませんでした。その後、携帯用化粧道具が広く一般の女性にも広がり、機能的にも革命的な変化をもたらしたきっかけは、意外にも、第二次世界大戦。戦場に向かった男たちの代わりに、国内の企業の労働力を支えた女性たちに、携帯用の、しかも手ごろなお値段の化粧道具は必需品となりました。
 サイズ、機能、値段ともさまざまな種類のコンパクトが多数のメーカーから発売され、40~50年代はまさにコンパクトの黄金時代となったのです。

R3_1   写真は、ドイツのメーカー、ROWENTA社の「プチポワン(ニードル・ポイント)」のコンパクト。30~40年代のものです。
 ROWENTAは現在、アイロンや掃除機などドイツらしい実直な製品で定評のある家電メーカーとして知られていますが、1884年に創業された当時からしばらくの間は、文具、喫煙具、洗面具などの携帯小物のメーカーでした。

 女性が社会進出するに従い、同時に女性の喫煙も一般化して来ました。銀幕の上でマレーネ・ディートリッヒが美しく物憂げに紫煙をくゆらすさまに、当時の女性はさぞや憧れを抱いたことでしょう。シガーとパフの携帯は、当時の最先端の「かっこいい」女性の必須アイテムとなりました。

 そのせいかどうか、あるいは喫煙具メーカーの戦略の一環なのか、同じ「携帯用小物」のくくりで喫煙具メーカーがコンパクトを販売しているケースは珍しくありません。ドイツのROWENTA社以外にも、イギリスのdunhill、アメリカのEVANS、VOLUPTEなど、30~50年代くらいの間に、名だたる喫煙具メーカーはこぞってコンパクトケースを販売しています。

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 上は50年代EVANS社製の、おそろいのポケットライターと小型のコンパクトのセットです。 ゴールドトーンの金具に夜空の星々の表装。なんて小粋なんでしょう!ライターとコンパクトのセットの他、おそろいの柄のシガレットケースや香水瓶、ハンドバッグなどのセットも販売されています。
 このサイトの左側にamazonで見つけた洋書のリストがありますが、一番下の「EVANS BOOK」には、この凶悪に可愛いセットの数々が載っていて、写真を見ながらいちいち「可愛い!」「素敵!」と絶叫してしまった私です。

D1 D2

 「紳士のメーカー」、dunhillも、20~30年代に創始者アルフレッド・ダンヒルの長女、メアリー・ダンヒルが女性向けの携帯小物をデザイン、販売しています。男の世界のイメージのダンヒルが、コンパクトなどの女性向け小物を販売していた、というのは面白いですね。

 上の写真のものは「メアリー・ダンヒル」ブランドのものではありませんが、50年代くらいにdunhillから販売された「CLEARVIEW」というコンパクトのシリーズの一品です。この「CLEARVIEW」というのがダンヒルらしい画期的な発明で、写真右側の、鏡の部分を横切っている金具、これがなんと、車のワイパーのように内側にふき取り用の布が付いていて、コンパクトを開けると鏡の上から下へ自動的に移動し、鏡に付着したお粉をふき取り掃除してくれるというスグレ物なのです!こういうメカニカルな工夫が、「男のメーカー」っぽいですねぇ。

V1  前にも「おそろい物は困る」という記事を書きましたが、こういろんなメーカーがコンパクトとおそろいのセットをいろいろと出してくれると、コレクターとしてはホント困ってしまいます。いえまあ、集めなきゃいいでしょ、という事ではありますが。
 右はアメリカのメーカー、VOLUPTEのちょっとオリエンタルな動物柄のコンパクトケース。まったくおそろいの柄のシガレットケースもあることは知ってるんですが、まだ未入手です。…って、やっぱり入手する気なんでしょうか、私ってば。だって柄が気に入ってるんですよぉぉ。

 なお、これらの喫煙具メーカーは、現在ではコンパクトの製造販売はしていません。とても残念なことです。上記のダンヒルの「CLEARVIEW」みたいな発想って、自動車レース用のゴーグルを作ったダンヒルという異業種ならでは、だと思うんですけどね。

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コメント

おもしろーい!
化粧道具の歴史。
柏林堂さんさすが詳しいなあ

投稿: 明(ミン) | 2006年5月17日 (水) 11時25分

いえいえ、そんなことないんです、判らないことだらけで必死で勉強中ですよ~。
なんか間違ったこと言っちゃってるかもしれないから、あまり信じちゃいけませんぜ、お嬢さん(^^;)

今週末は久しぶりに骨董市なんで、楽しみです。

投稿: 柏林堂 | 2006年5月17日 (水) 12時33分

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